M先輩の話 フットワークの軽さが肝要ということ

職場の1つ上の先輩でМ氏という人がいた。今回はその先輩M氏の話を書いていこう。


最初にM氏と出会ったのは新卒で入社して間もない5月だったと思う。
都心から離れた千葉の支店に研修に行ったのだが、そこで1年上の先輩の話を聞くという時間があり、その語り手がM氏だった。
千葉の支店で女性はM氏くらいしかおらず、若干浮いている感じであった。


私が当時いた横浜の支店とは何かと連携することが多く、M氏の電話を新人の私が取り次ぐことも多かった。
支店の統廃合もあって、私とM氏は4年後には同じ東京のオフィスで働くことになった。
このころになるとM氏の同期の半分は退職しており、私の同期も退職ラッシュであった。
年が近いこともあり、M氏とその友人J氏(女性)とは夜に飲みに行くことが頻繁にあった。


M氏はなかなか度胸のある人物で、バンジージャンプやロッククライミングに挑戦するなどアグレッシブな性格だった。
髪にピンクのインナーカラーを入れて、私に見せびらかしにきたりもした。
また、社外との人脈が妙に多く、頻繁に交流を図っているようだった。
それゆえ、自分が置かれている状況について冷静に観察ができているようであった。物言いも鋭く、私も何度か論破されたことがある。

業務の関係で一緒に社外に出かける機会があった。途中時間を持て余し喫茶店に立ち寄った時の話だが、М氏は唐突に語り始めた。

「会社を辞めてカナダに留学に行こうと思う」

そう語るМ氏はなかなかカッコよかった。彼女は結局その後1年同社に勤めて、惜しまれつつ退職した。

準備期間を経て、2020年からカナダに出発する予定としたМ氏は私にLINEで今後のことについて報告してくれた。

「会社を辞めずに、今のままでいると後悔すると思った」

絵にかいたようなセリフだが、彼女の交流の広さから言えば、説得力があった。


2019年となり、М氏もいなくなった後、私は東京から福島県郡山市の小さな支店に異動となった。
М氏は予定通り、2020年からカナダに留学する予定であったが、その矢先新型コロナウイルスが世界に蔓延し始めた。
М氏は留学エージェントに頼み込んで、すでに支払い済みだった留学費用の返還を求めたが、時すでに遅し。
結局、1円たりとも戻ってこなかったとのこと。

ところが、彼女はすぐに行動を起こして、ベンチャー企業に入社した。その会社を半年で退職して、交流があった別の会社に入りなおしたのだった。
あまりのフットワークの軽さに少々驚きを隠せなかった私だが、М氏らしいなと感心した。

今、迷いの中にある私の中にとって、とにかくやりたいことを消化すれば迷いは晴れるのだ、というМ氏の姿がまぶしく思えるのだ。